妻遺言書に家や預金のことを書きたいけれど、どう書けばいいのかしら。
生命保険は、遺言に書いてもいいの?



財産の種類ごとに、書き方の型があります。法務省の文例をもとに、順番に見ていきましょう。
遺言書でいちばん大事なのは、「どの財産を、誰に渡すか」が、はっきり分かることです。家や土地、預貯金は、あとから「どれのこと?」とならないように、特定して書きます。
この記事では、法務省の参考資料にある文例の形と、法務局の記載例、保険法の条文、国税庁の案内をもとに、不動産・預貯金・生命保険の書き方を整理しました。財産目録の項目の細かい書き方は別の記事に譲り、ここでは、本文でどう渡すかに絞ります。
最初に結論を言っておきます。
遺言書は、本文に「どの財産を誰に渡すか」を書き、不動産や預貯金の中身は別紙の目録で特定する形が基本です。生命保険は、保険契約の受取人が決まっているので、遺言に書く前に、保険法の仕組みと保険会社の手続を確かめます。
なお、この記事は書き方の形の整理です。「あなたの場合はこう書く」という個別の判断はしません。迷う点は、法務局、公証役場、司法書士会などの窓口にお尋ねください。
全体の形|本文と別紙の目録を組み合わせる
自筆証書遺言は、本文を全部自書し、不動産や預貯金は、別紙の目録で特定する形が使いやすいです。
本文は全文を自書する
民法968条は、自筆証書遺言の全文、日付、氏名を自書し、押印することを求めています。
財産の目録だけは、自書しなくてもよいとされています。パソコンで作ったり、通帳や登記事項証明書のコピーを付けたりできます。その場合は、目録の全ページに署名して押印します。本文とは別の用紙にします。
本文と目録のつながり
本文で「別紙目録第1記載の不動産」のように書き、別紙の「第1」に不動産の情報を書いて、結びつけます。
法務局の記載例には、財産目録を添付して遺言書を作るときは、別紙1、別紙2などと記載して、財産を特定しましょうと書かれています。付言事項は、財産目録ではなく、本文に自書します。
| 部分 | 書くこと | 自書 |
|---|---|---|
| 本文 | 誰に、どの財産を渡すか。遺言執行者の指定。日付、氏名、押印 | 全部自書 |
| 別紙の目録 | 不動産、預貯金などの中身 | 自書でなくてよい。全ページに署名・押印 |
| 付言事項 | 気持ちや理由 | 本文に自書 |
(民法968条、法務局の記載例より)
目録の項目の書き方は、別の記事で詳しく説明しています。
あわせて読みたい:遺言書の財産目録の書き方|不動産・預貯金の記載例とパソコン作成・通帳コピー・署名押印の決まり
「本文で渡す先を決め、別紙で財産を特定する」の2段構えが、あとから読み取りやすい形です。



本文と別紙で、役割が違うのね。
本文は全部自分で書くのは、変わらないのね。



そうです。目録は、パソコンやコピーでもよいという点が、助けになりますよ。
本文の文例|不動産・預貯金・その他の財産
法務省の参考資料には、不動産、預貯金、その他の財産を、別の人に渡す遺言書の本文の例が載っています。
文例の形
文例では、不動産は長男に、預貯金は次男に、それ以外の一切の財産は妻に渡す形になっています。実際の名前や日付は、人ごとに違います。
| 項目 | 文例の形(法務省の参考資料より) | ひとこと |
|---|---|---|
| 不動産を渡す | 「私は、私の所有する別紙目録第1記載の不動産を、長男〇〇(生年月日)に相続させる。」 | 別紙の第1と、本文の第1を対応させる |
| 預貯金を渡す | 「私は、私の所有する別紙目録第2記載の預貯金を、次男〇〇(生年月日)に相続させる。」 | 別紙の第2と対応させる |
| 残りを渡す | 「私は、上記1及び2の財産以外の預貯金、有価証券その他一切の財産を、妻〇〇(生年月日)に相続させる。」 | 書き漏らしに備える一文 |
| 遺言執行者を決める | 「私は、この遺言の遺言執行者として、次の者を指定する。」のあとに、住所、職業、氏名、生年月日 | いない場合は書かない |
| 日付・署名・押印 | 日付、住所、氏名、押印 | 日付は特定できる日を書く |
(法務省の参考資料「自筆証書遺言の方式(全文自書)の緩和方策として考えられる例」より)
この資料は、方式を緩める案として示された例です。実際に書くときは、法務局の様式や、公証役場の相談で確かめてください。
文例を使うときの注意
文例は「形」であって、そのまま書き写せば安心という意味ではありません。
財産の中身、家族の関係、誰に何を渡したいかによって、書き方は変わります。内容の良し悪しや、あなたの場合の書き方は、公証役場、法テラス、弁護士会、司法書士会の窓口でお尋ねください。法務局の保管制度では、遺言の内容に関する相談は受けていません。
書き方の全体像は、次の記事にまとめています。
あわせて読みたい:遺言書の書き方|自筆で書く5つの決まりと、法務局に預けるときの様式をまとめました



文例は、読み取りやすい順番を知るための見本です。ご自分の場合に当てはめるのは、窓口で確かめながら進めましょう。



なるほど。形を知っておくだけでも、相談に行きやすくなるわね。
不動産の書き方|土地と建物を、登記のとおりに特定する


不動産は、土地と建物を別々に、登記事項証明書の記載どおりに特定するのが基本です。
土地と建物は別の不動産
土地と建物は、登記の上では別の不動産で、別々に書きます。
法務省の参考資料の目録の例では、「土地」と「建物」が分けて並んでいます。土地は所在、地番、地積など、建物は所在、家屋番号、種類、構造、床面積などです。マンションは、専有部分の建物と敷地権の表示を書く形です。
| 不動産の種類 | 目録に書く主な項目(法務省の参考資料の例より) |
|---|---|
| 土地 | 所在、地番、地積 |
| 建物 | 所在、家屋番号、種類、構造、床面積 |
| マンションなど(区分所有) | 一棟の建物の表示、専有部分の表示、敷地権の目的である土地の表示、敷地権の表示 |
(法務省の参考資料「物件等目録」の例より)
住所として使っている番地と、登記簿上の地番や家屋番号は、同じとは限りません。登記事項証明書で確かめて、その記載のとおりに書きます。
登記事項証明書のコピーを目録にする
法務局の記載例では、不動産の場合、所在、地番、家屋番号などで特定できれば、登記事項証明書の一部分やコピー(縮小可)を、財産目録として添付できます。
登記情報提供サービスで印刷した例も示されています。コピーは、内容が明確に読み取れるよう、鮮明に写っていることが必要です。
相続する人が決まっているとき
不動産を受け取る人は、「相続させる」か「遺贈する」かの書き分けも確かめます。
法務局の記載例では、推定相続人には「相続させる」または「遺贈する」と記載するとされ、「遺贈する」とした場合は、保管の申請書に受遺者として記載する必要があると案内されています。相続人以外の人に渡すときは、「相続させる」ではなく「遺贈する」と書きます。
人物は、氏名のほか、生年月日、肩書き、住所などのいずれかで特定できるように書きましょう、とも案内されています。
「自宅は長男に」のような書き方だけでは、どの不動産かが分かりません。登記のとおりに特定した目録と組み合わせます。
受け取った人の登記
遺言で不動産を受け取った人は、相続登記の申請が必要です。
法務省の案内では、相続(遺言を含む。)で不動産を取得した相続人は、取得を知った日から3年以内に、相続登記を申請する義務があります。公正証書遺言の場合の流れは、別の記事にまとめています。
あわせて読みたい:公正証書遺言の作成者が亡くなったら?遺言検索・謄本・検認不要・銀行や登記の手続を順番に整理
預貯金の書き方|口座ごとに特定する
預貯金は、金融機関名、支店名、預金の種類、口座番号で、どの口座かを特定します。
文例にある形
法務省の参考資料の目録の例では、銀行の預金は銀行名、支店名、普通預金などの種類、口座番号を書きます。ゆうちょ銀行の通常貯金は、記号と番号です。
通帳やカードのコピーを、目録にすることもできます。銀行名、支店名、口座名義、口座番号が、鮮明に読み取れるようにします。印字が薄い場合は、やり直す必要があります。
| 方法 | 確かめること(法務局の記載例より) |
|---|---|
| 目録に書く | 銀行名、支店名、預金の種類、口座番号 |
| 通帳・カードのコピー | 銀行名、支店名、口座名義、口座番号が鮮明に読み取れること |
| 用紙 | A4。地紋や彩色がないもの。感熱紙は避ける |
(法務省の参考資料、法務局の記載例より)
暗証番号やパスワードは、財産を特定するための事項ではないので、書きません。
口座を変えたときの見直し
口座を解約したり、新しく作ったりしたら、遺言書の目録も見直します。
解約した口座を書いたままでは、その口座の財産は存在しません。新しい口座を書き足していなければ、書き方によっては、遺言に書かれていない財産として扱われる場合があります。遺言に書かれていない財産は、共同相続人の協議で分けるのが民法907条の考え方です。
遺言執行者がいると、預貯金の手続が進めやすい
民法1014条3項は、遺言執行者が、預貯金の払戻しの請求や、解約の申入れをできる場合があると定めています。
解約の申入れは、その預貯金の全部が、特定の財産を承継させる遺言の対象である場合に限られます。遺言執行者の指定や、亡くなったあとの手続は、別の記事で説明しています。
あわせて読みたい:遺言執行者とは?公正証書遺言での指定方法・なれる人・権限・いないときの選任を民法で整理



口座を解約したら、遺言書も見直さないといけないのね。
書いたら終わりではないのね。



そうなんです。財産が変わったときは、目録の直し方も決まっているので、確かめておくと安心ですよ。
生命保険の書き方|遺言に書く前に知っておくこと


生命保険は、保険契約で受取人が決まっているので、遺言に書くかどうかの前に、仕組みを確かめます。
保険金受取人は、契約で決まる
保険法42条は、保険金受取人が契約の当事者以外の者であるときは、その受取人は、当然に生命保険契約の利益を享受すると定めています。
| 項目 | 内容 | 出どころ |
|---|---|---|
| 受取人が当然に利益を受ける | 保険金受取人が契約の当事者以外なら、その受取人が利益を享受する | 保険法42条 |
| 受取人の変更 | 保険事故が発生するまでは、保険契約者が変更できる。保険者への意思表示でする | 保険法43条 |
| 遺言による変更 | 遺言でも受取人の変更ができる | 保険法44条1項 |
| 遺言による変更の対抗 | 遺言の効力が生じたあと、保険契約者の相続人が保険者に通知しなければ、保険者に対抗できない | 保険法44条2項 |
| 被保険者の同意 | 死亡保険契約の受取人の変更は、被保険者の同意がなければ効力を生じない | 保険法45条 |
(保険法より)
遺言で受取人を変えるときの注意
遺言で受取人を変えることは、保険法で認められています。ただし、遺言の効力が生じたあとに、保険契約者の相続人が保険会社へ通知しなければ、保険会社には主張できません。
つまり、「遺言に書いたから、保険会社が自動的に変更する」という仕組みではありません。通知する人が、亡くなったあとに動く必要があります。
保険金の受取人を遺言で変える具体的な書き方の文例は、今回確かめた法務省などの公的資料には見当たりませんでした。保険会社の所定の手続と、専門家の相談をおすすめします。
税金の扱いは、国税庁の案内で確かめる
死亡保険金は、保険料を被相続人が負担していた場合、相続税の対象になる「みなし相続財産」とされます。
| 項目 | 内容(国税庁の案内より) |
|---|---|
| 相続税の対象 | 被相続人の死亡で受け取る生命保険金。保険料の全部または一部を被相続人が負担していた場合、相続等により取得したものとみなされる |
| 非課税の限度額 | 500万円に法定相続人の数を掛けた額 |
| 相続人以外が受け取ったとき | 非課税の限度額の適用はない |
| 相続を放棄した人 | 非課税の限度額の計算では、相続人に含まれない |
(国税庁タックスアンサー No.4114 の案内より)
税額の計算や申告は、税理士にお尋ねください。
生命保険は、「遺言で誰に渡すか」より先に、「契約の受取人が誰か」を保険証券で確かめます。
書いたあとの確認リスト|不動産・預貯金・保険
書き終えたら、財産ごとに、特定できているか、あとから困らないかを確かめます。
8つの確認項目
次の項目を、一つずつ確かめます。
| 確認すること | 見る場所 |
|---|---|
| 本文は全文を自書したか | 民法968条 |
| 日付は、特定できる日か | 法務省の様式の注意事項 |
| 不動産は、登記事項証明書の記載どおりか | 法務局の記載例 |
| 土地と建物を、別々に特定したか | 法務省の参考資料の目録 |
| 預貯金は、銀行名・支店名・種類・口座番号があるか | 法務省の参考資料の目録 |
| 目録は、別の用紙で、全ページに署名・押印したか | 民法968条2項 |
| 相続人以外には「遺贈する」と書いたか | 法務局の記載例 |
| 生命保険は、受取人を保険証券で確かめたか | 保険法 |
(民法、法務省、法務局、保険法の案内より)
法務局の保管制度を使うなら、用紙の様式にも決まりがあります。
あわせて読みたい:遺言書を法務局に預ける保管制度|手数料3,900円・予約・用紙の決まり・検認が不要になる点
公正証書遺言にするなら、不動産では、登記事項証明書と、固定資産評価証明書または固定資産税納税通知書の課税明細書、預貯金では、通帳またはそのコピーを用意します。くわしくは、別の記事にまとめています。
あわせて読みたい:公正証書遺言の必要書類|戸籍謄本・印鑑証明・不動産の書類を、相続人が兄弟の場合も含めて整理
よくある質問
- 遺言書に、土地と建物は別々に書きますか?
-
土地と建物は、登記の上で別の不動産なので、別々に特定して書きます。法務省の参考資料の目録では、土地は所在・地番・地積、建物は所在・家屋番号・種類・構造・床面積を書く形が示されています。登記事項証明書の記載どおりに書きます。
- 遺言書の不動産は、住所と登記簿の地番のどちらで書きますか?
-
登記簿上の所在、地番、家屋番号で特定します。住所として使っている番地と、登記簿上の地番は違うことがあるので、登記事項証明書で確かめます。法務局の記載例では、登記事項証明書の一部分やコピーを目録に付けてもよいとされています。
- 遺言書の預貯金は、口座番号まで書きますか?
-
法務省の参考資料の目録の例では、銀行名、支店名、預金の種類、口座番号を書く形が示されています。通帳のコピーを目録にしてもよいとされます。暗証番号やパスワードは書きません。
- 生命保険金を遺言で誰かに渡せますか?
-
保険法44条は、保険金受取人の変更は遺言でもできると定めています。ただし、遺言の効力が生じたあとに、保険契約者の相続人が保険者に通知しなければ、保険者に対抗できません。具体的な手続は、保険会社と専門家にお尋ねください。
- 遺言書の不動産は、「相続させる」と「遺贈する」のどちらで書きますか?
-
法務局の記載例では、推定相続人には「相続させる」または「遺贈する」と記載するとされています。相続人以外の人に渡すときは「遺贈する」と書きます。法務局に預ける場合は、「遺贈する」とした場合に、申請書へ受遺者として記載が必要です。
まとめ


- 遺言書は、本文に「誰に何を渡すか」を書き、不動産や預貯金は別紙の目録で特定する
- 本文は全部自書。目録はパソコンやコピーでもよいが、全ページに署名・押印する
- 不動産は土地と建物を別々に、登記事項証明書の記載どおりに書く
- 預貯金は、銀行名・支店名・種類・口座番号で特定する。暗証番号は書かない
- 生命保険は、契約の受取人を確かめる。遺言で受取人を変えるときは、相続人から保険会社への通知が必要



財産の種類ごとの書き方の型が分かると、遺言書づくりの見通しが立ちますね。まずは、不動産の登記事項証明書と、預貯金の通帳を手元にそろえてみませんか。



そうね。財産の一覧から、書き出してみるわ。




